気配 線路 斜陽

今住んでいるところは昔ながらのアパートだ

エアコンには冷房しかついていないし 他の住人が共同のトイレに行けば音ですぐ分かる

お湯を出すにはコンロみたいなスイッチで火をつけなければならない

いかにも昭和の香りがする 床は変なフェルトが貼ってあって中学校の時の音楽室と一緒だし

 

でもこの部屋が好きだ

斜陽が眩しすぎたらコーヒーを入れてやると良い 汚い部屋が映画のワンシーンになる

 

前のアパートはとにかく陽当たりが悪かった

カーテンをひけば夏でも薄暗くて ぐっすりと昼寝ができた

 

それもまあ悪くはなかったけど 今の部屋にいるとずっと誰かの気配がする(怖い話ではない)

他の部屋の住人の出掛ける音とか 外で動く車の音とか 前の部屋ではあまり感じなかったから

 

鬱陶しいときもあるけど 安心するから この部屋が好きだ

 

同級生は皆卒業し どうにもならない自粛の波で誰も遊びに来ない 呼びもしない

 

今 電車が通った 線路がちょうど良く近いのもいい 

 

そのうち空き家を買うか借りるかするので そのときはこの部屋と似た 陽当たりがいい線路沿いの家にしようと思う

 

そこで買ってきた花を枯らしたりしながら 誰かと暮らせたら こころが惨めでも生きていけそうだ